正直、うまいです、引き込まれてしまいます。ちゃんとオチもあるし。。。
やっぱり、俺って、中学生くらいが人生のピークだったんですね。
今の自分が情けないです。
長文ですが、お付き合いください。
以下・・・
2050年、もはや既に元号と言うものはこの世になくなり、西暦でしか呼ばれなくなった時代の、とある研究室
である。
「やれやれ、やっと完成したぞ。これを吾輩は、「超遠隔操作・摩訶不思議・大量殺人機」と呼ぶことにしよう。
これはアマゾンの奥地の黒魔術使いの間に伝わる、呪いによる殺人術。それを高度に機械化し、現代に蘇らせたマシンがこれなのである。これから試運転に入りたいと思う。うまく結果が出ればいいが」
「ちょっと待ってください、田中博士。やはりこれは人殺しの装置ではありませんか。作る過程では知的興味で熱中しましたが、出来てみるとこれほど恐ろしい装置はありません。本当にこれが世のためになるのでしょうか?」
「世の中には道徳的にも法律的にも許されている殺人がある。それが「死刑制度」だ。法務大臣が変わるたびに、やつらの都合で執行したりしなかったり。それを裁判所に代わってやることの何が悪い。助手の分際でお前は黙って見ていろ」
それは死刑執行が決まっていても法務大臣の異動などで執行できていない死刑囚を検索したリストであった。
「死刑囚はもはや救済の余地のない囚人だ。これで不意打ちにやってしまったほうが、彼らにとってもよっぽど恐怖を感じずに済むはずである。それに牢獄に入れる期間が短縮されて、それこそ税金の無駄使いも防げるというもんだ。」
博士が装置にそのデータを読み込ませると、装置がゆっくりと作動し、まるでクマンバチが飛び回っているかのような唸り声を上げ始めた。それが最高潮に上がった思った瞬間、ひとつの閃光が研究室の窓を突き破り、既に暗くなった空に飛び去っていった。
翌日には装置の威力が明らかになった。
各刑務所において死刑囚が一斉に死亡したと言うニュースが、テレビや新聞でこぞって報道された。
原因不明、どこかの国のクーデターではないかと気を回す有識者もいたが、その説もすぐに消えた。死刑囚が死ぬのは当たり前、摩訶不思議だが犯罪性も事件性もない、誰かが先端技術を駆使してやったことだろうが、それに対しては寧ろ感謝を言いたい、との世間の評価であった。
「記事によると、囚人たちはいずれも丸1日程度をかけて徐々に元気を失い、その後ばったりと死んでしまったとのことです。我々の装置が動いた時間と一致します。博士、これは成功の証明です!」と助手は嬉しそうに言った。
「これは世のためであり、やがて世界は我々の功績に気付き、感謝し、崇拝するのだ。」
田中博士もうれしそうに達成感を味わっていた。
「そろそろ研究の資金も尽きたことだし、時間をおいて我々の装置を全世界に公表し、全世界の人々から更なる研究資金として寄付金を募ってみるか」
博士はこれから何億というお金が彼の指定した口座に振り込まれることを想像して、ほくそ笑んでいた。
「でもどうやって、我々がその死刑囚一網打尽計画の功労者であることを、世間に知らしめることができますか?」助手が不安げに聞いた。
「そうだなあ。自ら名乗り出るのも大人ではないし、では最近はやっているとの「22チャンネル」に第3者のふりをして、投稿してみるか。今のネット社会なら、数日も経たない間に私を突き止めるだろう」
博士は満足そうに自分の考えに納得していた。
博士はさっそく、22チャンネルに「今度の死刑囚一網打尽の張本人は、どうもある研究者みたいだよ。確かイニシャルがTで始まる学者らしい」と言う投稿を、他人を装って書いてみた。
するとすぐに瞬く間に話題となり、その「Tで始まる学者は誰か?」のニュースで持ちきりとなり、夜7時のNHKのニュースでまでも取り上げるようになった。
そして数日後、田中博士が何気なく、ニュースを見ていたところ、驚きの余り、椅子から転げ落ちてしまった。
そこには大きな見出しで
「Tの学者、判明する!正体は足立区に住む田村博士で、彼は過去に娘を変質者に殺された経験を持ち、その犯人が一旦死刑判決が出たにもかからず精神障害者の認定で無実となり、それに納得できずに日々研究を重ねて、この装置を作りあげたとのこと。」
涙ながらに語る田村博士の顔が、全世界に配信されていた。
そして彼は、これからも全世界の人たちが安心して暮らせる世の中を作るために研究を進めたいので研究資金を集めたい、と献金を募り、指定する口座には、世界中から寄付金が連日送金された。
田中博士は、怒り心頭で、「本来は吾輩が莫大な献金を受けるはずだったのに。こんな偽善者、許してはおけない。すぐにまた研究開始だ!」
それから1年、彼は新たな装置を開発した。その名も「超遠隔操作・摩訶不思議・大量殺人機2。偽善者は誰だバージョン」。
「これさえできれば、この世の中にいる金だけに目がくらんで金儲けのために名ばかりの博士を名乗っているような奴らを一網打尽に殺戮できる」と意気揚々と助手に説明した。
そして彼は、その「超遠隔操作・摩訶不思議・大量殺人機2。偽善者は誰だバージョン」装置のスイッチを押した。すると、装置がゆっくりと作動し、まるでクマンバチが飛び回っているかのような唸り声を上げ、ひとつの閃光が研究室の窓を突き破り、既に暗くなった空に飛び去っていった。
次の日、助手が研究室を訪ねると、田中博士がソファーに横たわっていた。
「博士、ご気分でも悪いのですか?今日は、博士の研究のおかげで世の中のためと言いながら、金儲けのためだけに研究をするような連中を一網打尽にやっつける日ではないですか。博士、大丈夫ですか?」
博士は具合の悪そうな小さな声で、「なぜか昨日から体調が良くないんだ。どうも私が「超遠隔・摩訶不思議・大量殺人機2。偽善者は誰だバージョン」のスイッチを押した直後からなんだが・・・」
【エンド】